コラージュセミナーの開催報告とその後の活動について

阪本病院

2014年08月13日 09:00

 梅雨も半ばの、7月の日曜日。
 阪本病院の内と外をつなぐ場「デイナイトケアなかまの家」の休日に会場を作って、石川県能美市より創業135年を迎える九谷焼の窯元「上出長右衛門窯」から講師の先生をお迎えし、オリジナル器づくりの会が開催されました。
◎この会には・・
 普段あまり病院スタッフ以外と出会う機会の少ない長期療養の方々と、病院の外で暮らす多種多様な立場の方々(学生、社会人、子連れのお母さん等々)が参加されました。
総勢54名でテーブルを囲み、同じ作業に取り組みます。約3時間の創作活動は途中で退室する人はなく、一人ひとりが「私の器づくり」に集中する時間でした。最後の質問コーナーでは、九谷焼の歴史や使用した専用の転写シールは誰が作ったのか?等々、療養者の方々から活発な質問があり、窯の先生方の丁寧で詳しいレクチャーに会場の皆が聴き入りました。

◎使用した「クタニシールキット」とは・・
上出長右衛門窯の六代目上出惠悟氏が考案した、九谷焼のなかでも同窯にしかないものだそう。
このキットを使用したワークショップが日本中で展開されるほど人気のアイテムで、当院での開催は80回目にあたるとのこと。
白いコップやお皿などの“九谷焼”に、専用の転写シールをはりつけデザインするまでを当日は行いました。

◎その後再び石川県の窯で焼き上げへ・・
この会の後、作品を石川県へ送り返します。約三週間後、美しい色合いに焼き上がったオリジナル器を受け取ることになります。参加者の皆さんは、「退院した後にも使えるものを」「病棟のお茶会で使うお揃いのコップを」等々、自分なりの考えを持って作った人もいれば「これからどんなふうに使おうか…」と思案する人も。“皆さん焼き上がりをお楽しみにお待ち下さい!”との先生方の声を聴きつつ、この日は病院の内と外へとそれぞれに解散しました。

◎そして器が届きました!

思い思いの「私の器」と、横長のお皿は「私たちの器」。そばに座る御縁のあった数人で合同製作した記念プレートです。使い道はこれから相談です。ある療養患者さん「私が欲しい気持ちもするし一緒に作った○さんにあげたい気持ちもするわ」とのこと。

お渡し会では待ちに待った「私の器」に喜びもひとしお。
「色がきれいになった!」と鮮やかな焼き色に驚き。

◎それぞれの場所で・・
 病棟のお茶会で、早速コップを使って「話そう会」。横長のプレートにはお菓子が盛られました。
 別の病棟では、皆が集まるミーティングで作った器を披露する方も。阪本病院では、日々あちらこちらで話す会(グループミーティング)が開かれています。まずはそうしたお馴染みの場所に抱えられ、新しい経験は語られ活用され始めました。
 そして、これから。セミナーに参加した経験のある療養者の皆さんが“器作りの先生”になって、一回目の会には参加されなかった皆さんと一緒に病棟内で小さな器作り(てのひらサイズの角皿)を行う予定です。
 この小さなお皿を皆でどう使うか?というテーマでも様々な意見が出ています。病棟レクリエーションで自家製和菓子を作るときの器にしたり、行事の際の取り皿として活用したり、作業療法のミーティングでお茶と一緒に小さなおやつを載せてみたり・・と様々な機会に活躍させようと今から色んなことがイメージされているようです。
◎いつかそのうち・・
 一回目のセミナーで作った「私の器」と「私たちの器」としての記念プレート、それにこれから作る予定の「みんなの小さなお皿」を持ち寄って、作家100人の作品展(仮)を開ければと夢見ています。その日は、病院の外から参加された方々にも“器を持ってご参加ください”と招待状を出して、もう一度みんなの作品と作家が集って再会するような機会になることでしょう。その日は、どなたでも気軽に立ち寄って九谷焼の作品を眺めながらコーヒーを一杯飲んでいけるような一日限りのアートカフェになりはしないでしょうか・・。そんなことが、病院の内と外を繋ぐ場所で展開される日が来るといいな・・と、長く続く療養の中に明日への希望を育てつつ、それぞれの「私」が生きる毎日です。

◎おしまい
 この会は、公益財団法人阪本精神疾患研究財団の助成を受けて行われました。また外からの参加者と共に集うにあたっては、同じ東大阪市内にある大阪樟蔭女子大学の先生や学生の皆さんはじめ、各方面様々な方々からのご協力を得ました。この会が無事に行われ、私たちの生きる社会が、長く療養を要する方々と共に生きられる場へと変容していく為の大きなヒントを得たことをここに報告し、改めて御礼申し上げます。

 さいごに、たくさんの作品が美しく仕上がるための支えになって一心に会場を巡回下さった上出淑子先生、村田沙貴子先生にこころより感謝申し上げます。また、この特別で不思議な場づくりの企画を進展するにあたって一役かって下さった新進気鋭のアーティストでもある同窯六代目上出惠悟氏と上出長右衛門窯の益々のご発展をお祈りしています。